はじめに
ロボットによる自動バフ研磨では、同じプログラムで加工を続けていても、時間の経過とともに研磨状態が変化していきます。
その大きな原因の一つがバフの摩耗による外径変化です。
バフは加工するたびに摩耗するため、外径が徐々に小さくなります。その状態でロボットが同じ位置へワークを持っていっても、バフとワークの接触位置や押し込み量は変化してしまいます。
私は以前、ドイツSHL製の自動研磨設備に携わった経験があります。その設備ではKUKAロボットを中心とした制御システムが使用され、INTERBUSによって各研磨機や周辺機器が制御されていました。
このSHL設備で特に印象に残っているのが、バフが摩耗したからロボットのユーザー座標を変更するのではなく、研磨機側の軸を前進させ、バフ外径面の位置そのものを一定に保つ考え方です。
現在、自動研磨設備を構築する中で、この考え方をKEYENCEのレーザー変位計IL-1000を使ったバフ外径計測と組み合わせることで、より安定した研磨ができるのではないかと考えています。
今回は、その考え方について実際の設備経験を交えながら紹介します。
SHLの自動研磨設備から学んだバフ摩耗補正
以前扱っていたSHLの自動研磨設備は、現在私が扱っている三菱電機PLCを中心とした設備とは制御構成が異なっていました。
SHLはドイツの研磨・バリ取りなどの自動化システムを手掛けるメーカーで、当時の設備ではKUKAロボットが採用されていました。
設備の制御は、KUKAロボットコントローラ内部のソフトウェアPLCによるロジックを中心として構成され、INTERBUSを介して研磨機や周辺I/Oなどが制御されていました。
ここで重要なのは、ロボットだけですべての位置補正を行っていたわけではないことです。
バフが摩耗して外径が小さくなった場合、単純に考えればロボットの研磨位置をバフ側へ移動させれば対応できます。しかしSHL設備では、ロボット側のユーザー座標を摩耗量に合わせて変更するのではなく、研磨機側の軸を前進させることでバフ外径面の位置を補正する方式が採られていました。
つまり、
「ロボットをバフに合わせる」のではなく、「バフをロボットの基準位置に合わせる」
という考え方です。
この方式なら、ロボット側の研磨軌跡を大きく変更する必要がありません。バフが新品でも摩耗していても、ロボットから見た研磨面の位置をほぼ一定に維持できます。
長期間安定した自動研磨を行ううえで、非常に合理的な考え方だと感じています。
KEYENCE IL-1000でバフ外径の変化を計測する
現在検討している方法では、KEYENCEのILシリーズを使用してバフ外径面を計測します。
バフは研磨を繰り返すことで外径が徐々に小さくなります。
たとえば新品時のバフ外径面を基準位置として登録しておき、その後一定のタイミングでレーザー変位計によってバフ表面までの距離を測定します。
新品時の測定値を L0、使用後の測定値を L1 とすれば、その差分からバフ外径面がどの程度後退したのかを把握できます。
ここで注意したいのは、レーザー変位計が直接「バフ直径」を測定しているわけではないことです。
センサーが見ているのは、あくまでセンサーからバフ表面までの距離です。
そのため設備制御としては、
基準測定値 − 現在測定値 → バフ表面位置の変化量 → 軸補正量
という考え方で処理します。
この補正量をPLCで演算し、研磨機側の前後軸へ反映させれば、バフが摩耗しても研磨面を一定位置へ戻す制御が可能になります。
PLCを介してバフ摩耗量を軸補正へ反映する
現在の設備で同様の仕組みを構築する場合、私は三菱電機iQ-RシリーズのPLCを中心に制御する方法を考えています。
SHL設備ではKUKA側の制御システムとINTERBUSによって各機器が統合されていましたが、現在の設備ではPLCが各センサーやアクチュエータを統括します。
ここは、SHL設備と現在の設備を混同してはいけない部分です。
SHL設備:KUKAロボット側の制御+INTERBUS
現在の設備:三菱電機PLCを中心とした制御+必要に応じてCC-Linkなどのフィールドネットワーク
という違いがあります。
ただし、制御機器が変わっても基本思想は同じです。
IL-1000で取得したバフ表面位置をPLCへ取り込み、基準値との差を演算します。その結果から必要な補正量を算出し、研磨機側の軸を前進させます。
制御の流れを単純化すると、
バフ位置測定
→ PLCへ測定値入力
→ 基準値との偏差演算
→ 補正量算出
→ 研磨機軸を移動
→ バフ外径面を基準位置へ戻す
となります。
こうすることで、ロボットプログラム側では基本となる研磨軌跡を維持しながら、バフ摩耗については研磨機側で吸収できます。
ロボット座標を補正しないメリット
ロボット研磨を経験すると、位置が変化した場合に「ロボットの座標を補正すればよい」と考えがちです。
もちろん、それも技術的には可能です。
しかし研磨では、多数のティーチングポイントや複雑な軌跡を使用する場合があります。バフ摩耗のたびにロボット側へ補正を加えると、プログラム管理が複雑になりやすくなります。
一方、研磨機側を動かしてバフ表面そのものを一定位置へ戻すことができれば、ロボットは常に同じ基準を使って研磨できます。
この方式には、
- ロボットのティーチング基準を維持しやすい
- バフ摩耗補正を研磨機側で完結できる
- 補正量をPLCで一元管理できる
- バフ交換後の基準復帰を考えやすい
- 研磨条件と位置補正を切り分けやすい
といったメリットがあります。
SHL設備を経験して改めて感じるのは、自動研磨ではロボットだけを高精度に動かすのではなく、「ロボットから見た研磨面をどう一定にするか」という設備全体の考え方が重要だということです。
自動研磨では「バフを基準位置へ戻す」という発想が重要
バフ研磨は切削加工とは違い、工具であるバフ自体が大きく変化します。
摩耗だけでなく、ドレッシングによっても外径や表面状態が変化します。
そのため、ロボットの繰り返し精度だけを高めても研磨品質が必ず安定するとは限りません。
そこで重要になるのが、
「現在のバフ表面はどこにあるのか」
を設備自身が把握することです。
レーザー変位計によって現在位置を測定し、その結果からPLCで補正量を算出して研磨機側の軸を動かす。
これは単純な位置決め制御のように見えますが、実際には自動研磨の安定性を大きく左右する部分だと考えています。
SHL設備で使われていた考え方を、現在のレーザー変位計、PLC、ロボットを組み合わせた設備へ応用することで、より再現性の高い自動研磨システムを構築できる可能性があります。
まとめ
今回は、SHL製自動研磨設備で経験したバフ摩耗補正の考え方と、KEYENCE IL-1000を利用した現在の設備への応用について紹介しました。
SHL設備ではKUKAロボットを中心とした制御システムが使用され、INTERBUSを介して各研磨機や周辺機器が制御されていました。
そして特に重要だったのが、バフ摩耗をロボットのユーザー座標変更によって吸収するのではなく、研磨機側の軸を前進させてバフ外径面を基準位置へ戻すという考え方です。
現在なら、レーザー変位計でバフ表面位置を測定し、PLCで基準値との差を演算して軸補正へ反映することで、同様の考え方を実現できます。
自動研磨では「ロボットをどのように動かすか」だけでなく、変化するバフをどのように一定の基準へ戻すかまで含めて考えることが、安定した研磨品質につながると考えています。

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